糖尿病で脳梗塞で認知症の父
つい最近まで脳梗塞で約2ケ月入院していた父。
幸いにも後遺症はなかった。
リハビリもして入院前より元気になったようだ。
しかし、以前から発症していた認知症は
一層ひどくなったようだ。
もの忘れがひどい。
同じことを何回も言う。
そしてやたら物事にこだわる。
入院前と同じ生活を送らないと気がすまないらしい。
車を運転したい父
車の運転も危険だとは思うが
本人は「大丈夫だから車に乗る」と言っている。
「免許返納したら?もう危ないでしょ?」と
母は父に言い続けていたものの
全く言うことをきかない。
「俺は何十年も乗ってきてるから大丈夫」
そんな父は免許の更新時に記憶力テストが
かなり怪しかったらしい。
それなのに免許更新されるんだから危ないことこの上ない。
車のことは父以外の家族全員よく分からないので
ずっと放っておいた。
車は父本人がそのうちなんとかすると思っていた。
母も大丈夫と言い張る父に押し切られた。
母もずっと父の車で外出していた。
乗り慣れないバスはイヤだし
タクシーはお金がかかる。
なにより楽をしたかったのだろう。
家族4人で出かける
久しぶりに父、母、姉と私の4人で墓参りに
行くことにした。
車で10分くらいのところにあるお寺だ。
グレーの軽ワゴン車。
20年以上乗っている全くエコでない時代遅れの車。
運転が父、助手席が母、
そして後部座席に姉と私。
以前そうしていたように、
いつものように車を走らせた。
交通事故
家から出てすぐの道路にある信号のない横断歩道。
父は徐行しつつ通過しようとした。
ちゃんと指差し確認している。
スピードをあげた。
するとふいに大学生くらいの男性が乗った自転車が飛び出してきた。
一瞬だった。
ドンッと大きな音がして
自転車をボンネットに跳ね上げた。
フロントガラスが割れる。
男性は自転車もろとも道路に叩きつけられた。
「やばい!とりあえず助けないと…救急車…」と
思い私は車を降りようとした。
しかし車は停車しない。
倒れた男性を置いて走り去っていく。
「ちょっとお父さん!止まって!車止めて!」
「いま人はねたでしょ!?どうして止まらないの?」
「早く!早く!早く!止めて止めて!止めて!」
姉も母も私もパニック状態で父に叫ぶ。
父は「車が止まらんよ!おかしい、さっきから押してるけど止まらん!」
父もパニックに陥っていた。
車はどんどんスピードが上がり加速していく。
アクセルとブレーキを踏み間違えているが
パニック状態ではそんなことは分からない。
父はブレーキを踏んでいるつもりなのだ。
「あぶない!お父さん!止めて!信号!赤!」
4車線ある大きな道路。普段から交通量も多い。
赤信号の交差点に猛スピードで進入した。
運悪くトラックが突っ込んできた。
むしろ突っ込んできたのはこっちなのだが。
阿鼻叫喚の車の側面にトラックが追突した。
車の衝突事故
一番死亡率の高いのは後部座席
一番生存率が高いのは助手席だ。
姉は即死だった。
トラックと衝突した車は大破し吹き飛ばされ
中央分離帯に叩きつけられた。
父も即死。
母と私はかろうじて生きていたが
母は意識不明の重体。
私も重症を負った。
体じゅうが痛い。苦しい。
足がぺしゃんこに押しつぶされている。
こんな足は動くのか?歩けるのか?
車椅子とか半身不随とかなったら
このあとどうなるんだろう?
母はどうなる?
私がいない間どうするんだろう?
いったいどうしたらいいんだろう?
父と姉のお葬式は?
親戚の人がやるの?
そういえば、ひき逃げしたあの人は生きているんだろうか?
損害賠償とかしないといけないのかな?
裁判とかなるんだろうか?
お金…お金はどうするんだろう?
あああ…どうやら私は生きている。
運が良かったのか?
本当に運良く生き残ったのか?
生きてたほうが地獄じゃないか?
父に運転させなければ、
免許を返納していれば、
いや、もう乗れないように
車を処分していたら…。
なんで放っておいたんだろう。
なんでやらなかったんだろう。
あの時の自分に言ってやりたい。
「今やらないと絶対後悔する。今すぐやれ」と。
…という別の世界線の話です
すみません。以上は創作です。
事故の部分のみ創作で他はほぼ事実です。
退院した日、
車を廃車にした私に対して父は
「車は処分せんでもよかったのに。税金(自動車税)だって何十万もかかるわけじゃないし
事故だって起こしてないのに…」
とむくれていた。
呆れたよ。
事故を起こしたら車を廃車にするの?
そのたった一度の事故で
自分や家族や
関係ない他人の命や人生を大きく狂わせることに
なるんだよ。
そして自分の人生ですら重いのに
さらに他人の人生も背負わないといけないんだよ。
自分も、家族も。
経験しないとわからないのかな?
毎日のように高齢者の運転の事故が報道されてるけど
他人事なんだろうね。
誰しも自分はそんなことにならないと思っているだろうからね。
事故を起こしたくて起こしてる人なんかいないのに。
気をつけていても事故は起こるのに。
そしてみんな後悔してるんだよ。
運転しなきゃよかった、運転させなきゃよかった。
もう歳なんだから、そろそろ運転やめないとね。
やめないと
地獄を見るよ。
生き地獄を。
Youtubeチャンネル
「老人と中年しか住んでいない家」
父が入院してから退院までの家族の経緯です。